Living in Mountains – 小林節正インタビュー

By 2018年12月29日 12月 31st, 2018 Interview

Interviewer: Yuichi Takeuchi / Photo: Makoto Tsuchiya

— アメリカを発端に世界に広まっている「タイニーハウスムーブメント」(小さな家でシンプルな生き方を楽しもうという考え方)は、みんながタイニーハウスで暮らすべきだと考えがちなんですが、そうではなくいろいろな生き方が人それぞれあっていいという選択肢のひとつだと思うんです。

小林 自分なりのスタイルを持つということだね。

— タイニーハウスは、自分は何者でどのように暮らしたいのかを考えるきっかけになればいいなと。小林さんは10年前からこの長野の山にも暮らしの場を作りましたが、どうしてそのような暮らしをしようと思ったのですか。

小林 生まれは浅草にある靴工場で都会に住んでもいたんだけど、母方の祖父が鉄砲打ちで子供の頃、夏はずっと三重の山の飯場に手伝いに行っていたんだよね。男だけで運営されていて、鉈とかナイフとか猟銃とか男臭いものしかない。狩に必要なものしかなく、それをいかに工夫して使うかを考えていたんだろうね。原風景としてそれがとても自分の中に残っていて、あるべき場所の指標となっていたのかな。1994年から“ジェネラルリサーチ”という、いわゆる街の服を作っていたんだけど、2005年くらいに「街の服を作っている場合じゃない」と思ってしまってさ、その頃から作家の田渕義雄さんやコリン・フレッチャーの本を読んだりして、自然の中に暮らしの場を作りたいと思うようになって、しばらく場所を探してたんだけど、2006年12月にこの場所が見つかって東京から山に通う生活が始まったんだ。

— 最初から開墾していったんですか?

小林 そう、もう不便だらけ(笑)。お湯も薪から沸かしたりしながら、しばらくはテントと寝袋の生活をしていたね。テントで暮らすことだけは一番最初から決めていて、 ここはその頃のキャンプの延長にある。森を間伐して、デッキを作って、少しずつ手を加えて10年たった今、この姿になってきた。ウッドデッキはドームテントを置くために作ったようなものでね(笑)、問題点もあるけどやっぱりドームテントがやめられないんだよなあ。自分でやってるマウンテンリサーチでは、山の暮らしに必要な道具をリサーチしながら洋服や道具をつくっているんだけど、ここにはその原点となる暮らしがあると思える。

— いま展開している“マウンテンリサーチ”は山の暮らし、キャンプの延長にあるんですね。

小林 山に登ることはあまりないんだけど(笑)、山に暮らし続けることで、自然と山の服、山の道具になっていったということかな。おのずと週末がメインになっちゃうんだけど、ゆっくり過ごすということはあまりなくって、薪割りやら林床の掃除やらだいたい作業をしていてね、自分の場合、そんな中から製品を作るきっかけが生まれてくるんだ。

— 小林さんにとってなくてはならない場所ですが、これからも変化し続けていくのでしょうか?

小林 ここではキャンプを続けていければいいかな。東京の暮らしもあるからね。ここに来ていろいろな調整がついて、また戻っていくの繰り返し。完全に移住をしたいということではないので、ここで得た気づきやきっかけを東京に持ち帰ることが大事なことだと思っているから。東京での生活に変化があれば、それはまた選択肢が変わるだろうけど、今のところはこのスタイルだね。

— 働くことに対しての意識、いつまで働き続けるかは気になります。

小林 好きなことをやってそれをお金に換金しているっていうやり方な訳だから、違う“川岸”に稼ぎにいくって話とはまた違うよね。好きでやっていることを工夫して換金する。いつまで働くかというのは、その換金をしなくなった時。その時には、今とぜんぜん違うことをやっているかもしれないし、 その状況になってみないとわからないなあ。どうしたいっていう、いわゆる願望はなくて、その状況を そのつど楽しんでいる感じなんだ。

— これから新天地でタイニーハウスを泊まりがけで作れるビレッジをイメージしているんです。タイニーハウスを作ってほしいという注文が多くなってきているのですが、予算がないという人も多くて。だったらほしい人が自分で作れて、なおかつ住める場所があればいいなと思って広い土地を買って今から整備するところなんです。

小林 タイニーハウスが商品として認知されてきているということだね。

— 商品として認知されるのも良いことなのですが、これからは暮らしは手作りできるんだということも感じてほしいなと。タイニーハウスを作ることをきっかけに、自分の暮らしを作るイメージが湧いてくるような。まさに小林さんのように。

小林 住む場所を作ることは暮らしの基本だから。

— タイニーハウスくらいの規模ならセルフビルドもやろうと思えば誰でもできます。今まで作り方を教えてきましたが、実際にタイニーハウスに住む人はいなくて。作って住むことができる場があったらいいなと思ったんです。イメージ的にはなんとなく3年くらいそこに住んだら、タイニーハウスを引っ張って出て行って代わりに新しい人が入るという循環があればいいなと。各地に散った人が新しい場でタイニーハウス作りを教えることもできます。小林さんはご自身で暮らしを一から作ることを実現していますが、実際何から手をつけてよいかわからない人も多いと思うんです。タイニーハウスがきっかけで、それぞれの人の暮らしの考えやビジョンが見えてきたら嬉しいです。

小林 なんでもそうだけどやってみないと、何度も失敗しないとわからないことが多いからね。

— ぼくも今の土地に出会って、ここにビレッジがあったらいいなと妄想しているんですが、小林さんの言うようにやってみないとわからないですね。

小林 あらかじめものごとを決めてできるほどロジ カルにやっているわけじゃないよ。でも、出たとこ勝負ができるところにいられるのは楽しいからね。会 社を大きくするのが目的ではなく、自分の感覚を社 会に反映しつつ、好きな人が好きでいてくれて、それを続けていくことができたらいいとだけ思っていて。そのための効率は喜んで仕事に取り入れる。重要なのは、そこに規格外をどれだけ盛り込めるかだよ。

— 予想できないことに、どう反応するかが試されますね。

小林 暮らしを考える上で一番大きな分かれ道は、何者にも支配されない場所を自分の中で持っていることって思っているんだ。ライフラインやコミュニティ、時間の使い方、それを自分なりに体現したのがここでの暮らし。どっぷりしたコミュニティでは暮らせないけど、1人でも暮らせない。といって、毎日ここにいるのも違う。それは今の生活をやってみてわかったことだった。そんなことを経て、どう暮らしていくかの当てがようやくついたところ。正解かはわからないけれど、その当てが見つかったことはとても大きなことだよ。知らないことはやってみるしかない。これにつきるね。

小林節正 PROFILE
「…..RESEARCH」代表。手がける製品は、入念なリサーチを下地に既存のアイテムを再構築するという独自の手法が特徴。山暮らしに向けた「マウンテン リサーチ」や、歩くためのギア「アナルコ パックス」などを展開。 
https://www.sett.co.jp
http://www.anarchomountaineers.org